(株)オフィストウヤ 代表 東谷 太 氏

- アパレル業界ニュース -
2016年01月13日

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(株)オフィストウヤ 代表 東谷 太 氏

  • 1991年 株式会社トゥモローランド 入社
  • 1995年 同社 ブランド マカフィーのMDに就任
  • 2000年 同社 執行役員に就任
  • 2001年 同社内にてエディション事業部(商品6部)を立ち上げる
  • 2002年 同社 取締役商品6部部長に就任
  • 2008年 2月 エディション表参道ヒルズ オープン
  • 2009年 2月 取締役社長室室長 就任
  • 2010年 2月 同社を退社
  • 2010年 2月 株式会社オフィストウヤ 設立
  • 2011年 4月 メンズブランド ロットホロン11/12秋冬コレクションよりスタート
  • 2011年 7月 アパレルセールス インキュベーション業務のトラックス事業部開始
  • 2011年 10月 ウィメンズブランド ロットラム12春夏コレクション
  • 2012年 9月 立ち上がりからコンセプト、企画、ディレクションを手がけるアクロスザヴィンテージ自由が丘店オープン
  • 2013年 株式会社三陽商会 プリングル1815のデビューコレクションよりディレクターとして参画
  • 2014年 株式会社ユナイテッドアローズ アストラット立ち上げよりディレクター就任 商品企画を含めた業務をオフィストウヤにて参画

-素敵なオフィスですね。

以前は芝浦のオンワードさんの近くにオフィスがあって、立ち退きでこちらに移ってきました。ここは外国人用住宅で、それをオフィス兼ショールームにして、展示会用に外部へリースしたりしてます。そして毎月買う本が大量にあるので、そのうちサロンのような使い方は出来ないかな?と考えています。

-毎月、そんなにも買うのですか?雑誌ですか?

はい。国内、海外半々くらい、金額の構成でいうと海外の雑誌が70%くらいですね。

-東谷社長の同業者は大体それくらい雑誌を買ってらっしゃるのですか?物量だけでも凄いですよね。アイデアの源泉でしょうか?

どうでしょうか…毎月の入れ替え作業だけでも大変ですから。単に買うのが好きなんですよ、バックナンバーは全部揃えたくなるんです(笑)本によってはずっとストックしているし、定期購読は毎月見直しをしています。今、大手アパレルは経費削減で雑誌がなかなか買えないし、活用の仕方もわからないと思います。

ファッション業界のマクロ的な動向はどうお考えですか?

あんまり明るい見方ではないですね。淘汰が加速して何割かは無くなっていくと思います。逆に無くならないと、今は需要と供給のバランスが悪すぎます。洋服にプライオリティ持っているのは40アッパーなので、その世代とその下の世代では、収入に占める洋服代の割合が違う気がします。40アッパーの人達が、更に年齢を重ねっていった後に、洋服に使う支出って相当減ってると思います。そうなった時に何をどうしていくのか?まぁ難しいですね…「シンプル族」震災前後から、そういう呼び方が出てきて、彼、彼女達は「普通のモノしかいらない」とか、その後が「ノームコア」「明日着る洋服を考えるのが面倒臭い」とか、「それを考える時間があったら、もっと仕事のパフォーマンスを上げる事とか考えたい」とか。

-ジョブズ的な考え方ですね。

何か洋服には凄い向かい風なマインドが、未だに続いているので、当分難しいですよね。「どこかで何かもっと楽しい事しようよ」とか、いずれバイオリズムの周期で出てくる時が来ると思うので、そうなった時にもっと洋服に注目して欲しいと思いますけど。客観的に見るとシュリンクしていくしかないでしょうね。

-しかしファッションの裾野は拡がっているような気がします。凄いダサい人ってあまり見なくなってますし。

洋服に意識がいっているので無くて、ヘアーやメイク、ネイルとか、外見の美しさにお金をかけてて、言い方が適切かわからないですが、外見が美しいと何を着ても似合うとか、そういった価値観が出てきているような気がしています。

-可処分所得は限られていますからね、そっちに食われていますか?

大きいですね。ネイルだって皆さん、普通に定期的に行かれるようになりましたし、1回1万円くらい掛かる。それを毎月行って、携帯代、ヘアー、メイク…そう考えると洋服に回すお金ってほとんど残ってないと推測されますね。

-ヘアーサロンで落とすお金もここ10年かでかなり上昇していますからね。

美容系に使うお金が確実に増えてますよね。お客様から見ると全部ファッションですから。あと、食べ物なんかでも、美味しいモノはケチらず食べたいとか、何か洋服からどんどん離れていく事に使うお金が増えているのが気になります。

-そんな厳しい環境下で成功されている東谷社長ご自身の会社、他にも「あのビジネスモデルは良いのでは?」と思う企業の強みを教えてください。

僕が成功していると見ない方が良いと思うんですけど、僕は多分、分母が小さいところで、僕と周りがある程度潤うぐらいがいいかなと。割と小さいところを確実にやってるだけっていうか…

-では、業界はもっと細分化して、小さいマーケットを狙っていけば良いという事ですか?

はい。小さいマーケットをいくつも持つって言うのが、今の時代に合ってるように思います。全体の分母は間違いなく小さくなっていくと思うので、その中で生き残るには、細分化した中でブランドを作って大事に育てる、そういうやり方が確実だと思います。

-今後、お客様が洋服を買いに行く場所はどう変化するでしょうか?

そこに関して言うと、洋服を買いに行くという限定的な場所では無く、そこに行けば楽しいとか、その空間を見るのが楽しいだとか、生で何かを見れるだとか、何かプラスの要素が無いと厳しいと思います。

-最近の大手アパレルを見ていると、経営のプロが経営陣になって、資産効率、経営効率という視点で効率経営に切り替わってきていて、先行投資や固定費の抑えられるECにシフトしています。洋服を売るチャンネルとしてECが重要なのは明白ですが、お客様がファッションを楽しんだり、刺激を受たり、洋服を買う場所と、そうでない場所との区別はどうしていけば良いのでしょうか?

ECの売上ですが、皆さん自社のECサイトを持っていて「売れてる売れてる」と言っても全体の20%前後なので、やっぱりショップで見て買う事にプライオリティがあるお客様がかなりいらっしゃる。僕の知人が大手EC企業の経営陣から「アパレルって何であんな売れないものいっぱい作るの?売れるものばかり作れば儲かるじゃん」て言われてカルチャーショックを受けてたんですけど(笑)そういう発想で洋服を見ると違うものになってくる、洋服、ファッションがただのパーツというか、下着コーナー、スーツコーナー、みたいな無味無臭にものになっていく気がします。

-その経営陣の方達がアパレルメーカーをやれば、スーパーベーシック&高機能を量産してコスパの良い商品を市場に供給するんでしょうね。

ただ嫌な流れなのが「ノームコア」っていうのが、そこにバチっとくっついちゃうところですね。時代的にはそうなってしまうのかな…

-スーパーベーシック&高機能はどう思われますか?

あれはあれで、やり方は正しいと思います。ただ、あれが全てじゃなく、他がある中でっていうのが条件ですけど。

-最近はデザインも入った低価格業態が人気ですが?

以前からある流れですが、洋服は全身ファストファッションでバッグはラグジュアリーブランドという人が多くなってます。やりずらい世の中だと感じますが、僕らが欲しいクオリティを求めると、価格的にラグジュアリーブランドになってしまい、その価値観が、今のお客様に通じるのか?というと、通じないと思います。やっぱりファストファッションが今のマジョリティ、ど真ん中だと思います。

-ファストファッションとラグジュアリーの中間マーケッットはどうなるのでしょうか?

ますます両極になりそうな気がします。一時、百貨店の中に低価格業態を誘致という時代がありましたが、そういうのとはまた違う感じで、百貨店は高級志向になる方が良いと思ってます。

-中間マーケットで気になるブランドやショップはありますか?

中間というか、上代を上げたセレクト業態の先行組の売上が伸び悩み、上代を維持している新興セレクトの売上はそんなに下がっていない。やっぱり価格帯はブレてはいけないと痛感しましたね。

-下の業態があるから、あえてプライスを上げたのではないですか?

すみわけもあると思いますが、年齢が上がっても、買う価格帯は変わらないという時代が如実に出たエピソードと思いました。それと比較して新興セレクトショップ達は頑張っていると思います。まず、スタッフが若いので、人件費負担が軽い、軽い分、商品や立地でおもいきった事が出来る。このまま10年経って人件費が高くなった時にどうなるか?でしょうね。

-新興セレクトの商品力はいかがですか?

半分以上、仕入れなので、そういう意味では、すごく何かが優れているという事はないですが、オリジナルにガンガンシフトしている店と比較して、単純に仕入れの多い店は面白いですね。

-その仕入れっていうのは、ODMの仕入れだけではなくて、製品仕入れですか?

そうですね。今、新興セレクトさんは普通の仕入れが多いんじゃないですか?昔のセレクトの雰囲気がありますよね。セレクトは今、ODM・OEMが多く、オリジナルが増えすぎて面白くなくなってます。そもそもセレクトショップが多店舗化する時点でセレクトショップではない気がします。

-セレクトが事業拡大していく上で、どこでこだわりを維持していくべきでしょうか?

今だとローカルに根ざした品揃えであったり、また、逆に一人のディレクターの価値観に寄せた品揃えであったり、空気感であったり、独自性を出すことが一番だと思います。どこに行っても同じファサードで、同じ商品内容でっていうのは、もう沢山かなという気がします。それは今更の話であって、もう何年も前からそういう状態ですけどね。ロンハーマンさんとかがポーンと出てきて、新鮮で、ガーンと行ったのが、そういうような事のような気がします。

-ロンハーマンさんの成功要因は何でしょう?

個人の価値観とかスタイルがお店に表れているところだと思います。何でもある品揃えでは無いじゃないですか?平たい言い方をすると、ライフスタイル、生き方、が確立されたセレクトショップですね。売り場ではなく、ディレクターの生き方やライフスタイル、今はそうなのかな、と。ただ、もう臨界点が近いような気もしますが…

-東谷社長が今後のディレクターとして手がけたい分野、構想は?

大体、誰もが言うんですけど、最終的にはホテルの全部をやりたいですね。出来る出来ないは、別にして。ホテルは生活の全ての要素があるじゃないですか?それを表現したら、生活の全てを表現できる。食事、ベッド、バスルーム、食材…自分の価値観で表現できる場所があれば、面白いですね。

-今それを物販でやっているところはどこですか?ライフスタイル自体を。

エースホテルですかね。物販もやっておられるし。尾道にもある自転車に乗る人のためのホテルとか、その分野の人たちがシンパシーを感じられる場所。集まる人が明確なので、何を売るのかも明確。

-ホテルというお話が出ましたけど、ライフスタイル業態の多くが旅をテーマに取り上げていますよね?

正にシンプル族的な考え方が続いていますね。大震災が今でも色濃く消費マインドに影響していて、モノは所有していても無くなるけど、経験や記憶は消えない、とか。洋服だけは、他のモノの消費の方程式に当てはまらないので難しいですけど。

-「フランス人は10着しか服を持たない」というベストセラーがありましたね。

フランス人は一見、毎年同じファッションをしていますね。ただ毎年ラペルの幅が少しづつ変わってたりとか、伝統の~とか、先祖代々とか、言っても、ラペルの幅とか、肩パットの大きさとか、何か違うねっていうのがファッションだと思います。

-これから業界でデザイナーやディレクターを目指すような人に求める事、期待する事は何でしょうか?

小売が強くなっているのは分かるんですけど、お客様目線過ぎて「こんなもの、お客様は求めてない」というような風潮が強くなり過ぎている気がします。アパレルは、プロダクトアウト型で「このスタイルを売っていくんだ!」という会社がもっと出てきて欲しいと思います。そういう会社が出てきたら、もっと若い子にも夢が出てくるんじゃないですか?「あのブランドで働いてみたい」と思う会社が今いくつありますか?だから、どちらかというと業界の発展には、企業の姿勢の変化に懸かっています。憧れられるブランドを創って欲しいですね。

-何がそうさせてしまったのでしょうか?

大企業化、サラリーマン化、自分で責任を取らない人が多いのではないでしょうか。ある意味、オーナー企業の方がヴィジョンが継承、共有しやすいです。「売れても嬉しくない商品がある」以前、よく思った事です。そういう商品を作らざる得ないお店になるのが問題で、それを求めてるお客様が来ないという事で更に薄まっていく悪循環。そういうお店の何にリスペクトが出来るのか?わかってる人に売りたいという気持ちがありますね。

-なぜオーナー企業はそうしなくても、やっていけるのでしょうか?

正直言って、個人でコントロール出来る資力があるから好きな事が出来ます。いい意味でヤンチャな事をしていますね。大手は、人を驚かせたいとか、感動させたいとか、そういう気持ちより前に「確実売りたい」となるので、驚かせたい、感動させたいという気持ちが削られていく。前出の大手EC企業の経営陣のような考え方と真逆ですから、相入れる事はない。

-業界で次の世代を、人を育てていくには、どういう考え方と環境を用意すれば良いでしょうか?

僕が提案しているのは「アトリエを作りましょう」と。ちゃんとモデリストがいて、洋服を着せながらデザインをしていって、洋服を作る。ちょっとどこかでサンプルを買ってきて、真似て、とかじゃなくて、もう一度、原点・本質に戻る必要があります。一部のセレクトではそういう動きがあるようですが、機能していないんじゃないですか?思考が変わらないとツールがあっても使えない、志が無いと出来ないと思います。

-若い人はどういう基準で企業を選んでいったらいいのでしょうか?入社後は、何を志して、どういう考えで働けばいいのでしょうか?

僕が新卒向けにスピーチする時にいつも言っているのが「まずは仕事を選ぶな」という事です。「目の前にあるものをこなしていくと、見えてくるものがあるので、そこで何が自分が好きで嫌いで、こう料理したら美味いとか、わかってくるものがある」「だから2~3年は何でも飲み込みんで、そこから目が肥えてきて、わかるようになるから、まずは好き嫌い言うな」と言っていました。

-そういう意味では、キャリアプラン的に言うと、20代前半で社会に出たとして、そのフェーズは何年くらい必要ですか?

人によりますが、短い期間で経験できた方が良いですから、20代半ばくらいでしょうか?半数ぐらいは「自分が何がしたいのか、私はこういう事が好きなのか」とわかってくるので、そうするとそこを突き詰めていく。次のステップはリーダーになる人と、スペシャリストになる人に分かれてくる。マネジメントをして人を育てていきたい、現場が好きなのでスペシャリストを目指す、という二つの志じゃないでしょうか?後はコンサルになるとか、斜に構えた人もいるかも(笑)

-デザイナーについてお聞かせください。専門学校を出てもなかなかなれないですが、どうすれば良いでしょう?

今の時代、確率は低いですが、自分でブランドを作ってしまっても良いのでは?そういう取り組みに助成金が出たりだとか、チャンスが増えているので、本当に気合が入っている子は、そういうチャレンジも良いと思います。立ち位置が中途半端な人がどっちにも来づらいでしょうね。昔ほど、インディペンデントで働く事に抵抗のない世の中になっているし、主従関係が無い方が企画の世界には合ってると思います。
あとは企業側の話ですが、世代をおもいきって交代させる事です。

-東谷社長の人の育て方を教えてください?

基本的には皆、価値観も全て違うので「帳尻を合わせてくれれば、どんなやり方をしてくれても良いからやってみろ」というスタンスです。着地点を設定して、自分で考えさせ、思いっきり動かせてあげる。着地点を意識してやっているようなら失敗しても何も言いません。ただ着地点から逸脱してるようであれば、口出しします。

-最近の中堅の若い人のゴールに向けての行動の仕方の変化はありますか?

その前のチェック機能が多すぎて、逸脱できないんじゃないでしょうか?全部ががんじがらめでヤンチャに行けない。制約が多い中で前年100以上を目指すしかない状況になっています。そんな環境でも「自分はこんな事をするためにこの会社に来たんじゃない」という熱い人がいれば、それは会社にとって財産だと思います。でも、普通の人はそうはならないので、アローワンスを持てる上司の存在が必要ですね。以前あるメーカーでは、可能性のある人には、どんどん資金を出して独立させていました。あれは、良かったですね。

-個で思いを持ってる人に資金を出してあげようとか、アパレル業界は中小企業が多く、余裕が無いですが、そういう時代に戻る可能性はありますか?

また違う企業の事例ですが、30歳定年制の会社がありました。今の人手不足時代に合ってるかどうかわからないですが、なかなかうまく考えられていて、30歳で辞めなきゃいけないと分かって入社してくる人達ですから、それなりの人が入社してきます。30歳以上の人がいなければ、高騰する人件費を商品や別の施策に回せます。

-今日のお話しは、全部繋がってるように思います。まず企業の責任は20代で色んな事を経験させる道場であり、場の提供で、あとは自分でやりたい事を見つけなさい、と。その後、30~40で独立する。そんな時に経済産業省から業界団体経由で助成金を出す等の、小さな事業体を作る支援をしていく体制が整えば、業界での活躍を志す若手の夢が広がっていくという事ですね。最後に東谷社長みたいになりたい人や転職をお考えの人にメッセージをお願いします。

先ほども言いましたように、まずは目の前の仕事をこなす。僕はアパレルメーカーの営業からスタートして、トゥモローランドへ転職し、2社で経験を積みました。あとは、仕入先さんとのお付き合いを大事にする事。突き抜けるような仕事はしていませんが、これはここと組めばうまくいくとかいう風にやってきました。転職についての僕の考えは、転職を考えながら働くっていうメンタリティがその会社に失礼なので、まず辞めるところから始めます。不安かもしれませんが、追い詰められた時の人間のバイタリティってあると思ってますので。また転職の理由がネガティブだったら、早まらないで、考え直した方が良いと思います。

-本日はありがとうございました。

インタビュアー:原田智也