2026.04.27

We are alone

2030年ジャック・アタリの未来予測』という本がある

日本では2017年に出た本で、当時ベストセラーにもなった
読まれた方も多いのではないだろうか

この頃は、「2030年の〇〇」といった未来予測本が数多く出ていた
AI、仕事、国家、経済、ライフスタイル
10年先、15年先の未来を語る本が、書店にたくさん並んでいた記憶がある

その中でも、アタリの未来予測は、別格だったように思う

もちろん、未来予測なので、すべてがその通りになるわけではない
しかし、2026年現在から振り返ると、その精度の高さには驚かされる

コロナ禍の当初、NHK Eテレのパンデミック特集で、ジャック・アタリのインタビューを観た

アタリは、コロナによって人々の行動は制限されるが、それは感染しないためだけではなく、感染させないための行動でもある、と語っていた

自分の自由を少し我慢することが、他人を守ることにつながる。
そこには利他の精神が必要だ、と

さすがだと思った

自由とは、自分の欲望を好きなだけ通すことではない
自分の行動が他人にどう影響するかを想像できること
そこまで含めて、成熟した自由なのだと思った

しかし、コロナ禍が明けてからの世界は、必ずしも利他的にはならなかった
むしろ、我慢していた欲望が一気に噴き出したようにも見える

ロシアのウクライナ侵攻
アメリカの自国優先シフト
SNSに流れてくる、これ見よがしの贅沢や成功の誇示

もちろん、それらをすべてコロナの反動とは言わない
それぞれに歴史があり、政治があり、経済がある
それでも、どこかでつながっているように感じる

人間は、危機の最中には利他を語る
しかし、危機が去ったあと、それを日常に残すことは難しい

そして先週、またEテレの特集「イラン攻撃 世界はどこへ向かうのか」でアタリを観た
突如始まったアメリカ、イスラエルによるイランへの攻撃
ホルムズ海峡の封鎖
国際社会が舵を失いつつある中で、世界はどこへ向かうのか

番組では、ハミッド・ダバシやジャック・アタリらに、道傳愛子氏が問いかけていた

アタリは、現在の状況を強く危惧していた

アメリカは次の手を考えず、思いつきで行動している
世界は相互依存の上に成り立っている
だから、大国の暴挙は瞬時に世界へ影響を及ぼす

そして、彼はこう言った

We are alone.
私たちは誰にも頼れない

同盟関係にあっても、自国を完全には守れない
ヨーロッパも、日本も、韓国も、台湾も、自分たちで自分たちを守ることを考えなければならない

この言葉は重かった

コロナ禍のアタリは、個人に利他を求めた
今回のアタリは、国家に自立を求めていた
甘えが通用しない時代に入っている

ただ、自国を自分たちで守るというと、すぐに軍事力の増強だ、という話になりがちだ
しかし、本当に必要な防衛は、それではない
自分たちで守るということは、自分たちで考えるということでもある

大国の顔色だけを見て判断するのではなく、相手国の立場や歴史や置かれている状況を踏まえたうえで、対話し、交渉する力を持つこと
力で押し切るのではなく、言葉で踏みとどまること
相手を屈服させるのではなく、相手の事情を理解したうえで、こちらの守るべきものを伝えること
そこにもまた、利他が必要なのだと思う

アタリは、アメリカとイランの戦争を経て、世界には二つの道があると言っていた

一つは、世界戦争へ進む道
もう一つは、同盟と法の支配によって、予測可能性のある世界をつくり直す道

絶対に後者でなければならない

予測可能性
人間が安心して生きるためには、それが必要だ

明日、国境が力で変えられるかもしれない
明日、海峡が封鎖されるかもしれない
明日、大国のリーダーの思いつきで、経済も生活も壊れるかもしれない

そんな世界では、人はまともに生きていけない
企業も、仕事も、家庭も、未来を描けない
だからこそ、法の支配が必要なのだ

強い国が勝手に決めるのではなく、一定のルールのもとで、各国が踏みとどまること
同盟もまた、敵をつくるためだけのものではなく、暴走を抑え、対話の土台をつくるためにあるべきだ

利他とは、ただ優しくすることではない
相手の立場を想像したうえで、自分の立場も放棄しないこと
その緊張の中で、何とか合意点を探ること
それは、国と国だけの話ではない
会社も、仕事も、人間関係も同じだ

強権的なリーダーたちが世界を振り回す時代が、いつか終わったあと
今の国連を、もう一段バージョンアップした本当に国際的に機能する組織・仕組みが現れることを期待したい
大国の都合だけで動くのではなく、小さな国の声にも耳を傾ける
軍事力や経済力よりも、知性と倫理がきちんと働く場所

その時には、アタリのような良識ある世界の知性が、アドバイザーとして関わっていてほしい

We are alone.
だからこそ、孤立してはいけない

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