ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)監督
『ブギーナイツ』
昨年公開の『ワンバトルアフターアナザー』がアカデミー賞で6部門も受賞した影響だろうか
アマプラで無料コンテンツになっていた
このPTAにとって初期の代表作品は1970年代後半から80年代にかけて、アメリカのポルノ業界でスターになった一人の男優と、その周囲の人々の盛衰を描いた作品である
題材的に、決してリビングで家族や恋人と気軽に観るような映画ではない
実際、内容もかなり刺激が強い
しかし、この映画は単なる業界内幕ものではない
今ではさらに磨きがかかっているPTAらしいカメラワーク、音楽の使い方、群像劇としての構成がとにかく見事だ
時代の熱気と、その後に来る寂しさが、画面全体に滲んでいる
登場人物たちは、欲望に流され、見栄を張り、判断を誤り、どん底まで落ちていく
自業自得と言えば、それまでかもしれない
それでも、完全には見捨て合わない
傷ついた人間同士が、まるで家族のように手を差し伸べ合い、もう一度生き直そうとする
そこに、思いがけない温かさがある
主演のマーク・ウォールバーグは、のちにこの役を演じたことについて複雑な思いを語っているようだ
しかし、自分はむしろ誇っていいキャリアだと思う
もともとこの役はレオナルド・ディカプリオにも話があったが、『タイタニック』とのスケジュールが被っていて実現しなかったという
ディカプリオ自身も後年、『ブギーナイツ』に出演しなかったことを大きな後悔として語っている
ただ、『ブギーナイツ』のマーク・ウォールバーグには、彼にしか出せない危うさがあった
自分がマーク・ウォールバーグを強く意識したのは、『ディパーテッド』だった
ジャック・ニコルソン、レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモンという豪華キャストの中で、引けを取らない存在感を放っていた
俳優になる前、彼がマーキー・マーク&ザ・ファンキー・バンチのマーキー・マークだったと知ったのは、かなり後のことだ
当時ヒットしていた「グッド・ヴァイブレーションズ」は、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックの弟分的な売り出しもあって、アイドル色、ポップさを感じつつも
曲自体は、疾走感のあるヒップハウスで、ロレッタ・ハロウェイのコーラスも効いていた
今聴いても、よくできたダンスチューンだと思う
マーク・ウォールバーグの魅力は、本物のストリート感が残っているところだ
ティーンエイジャー時代に数えきれないほどの問題を起こした、札付きのワルだった過去があり、その危うさや荒っぽさが、後年の演技にも滲み出ている
きれいに作られたスターではなく、一度どこかで道を踏み外しかけた人間の匂いがある
『ブギーナイツ』の彼には、それがよく出ていた
成功に浮かれ、転落し、それでもどこか憎めない
愚かで、浅はかで、でも完全には壊れきれない
やはり人間、調子に乗っている時ほど危うい
成功している時、自分の力で何でもできるような気になってしまう
しかし、そんな時ほど足元は見えなくなる
ただ、どん底に落ちた時に救いの手を差し伸べてくれる人間関係は、得てして、調子に乗っていた時代に一緒に汗をかいた人たちでもある
うまくいっている時に、同じ現場で笑い、働き、失敗し、時には揉めながらも時間を共有した人たち
そういう関係だけが、落ちた時にも完全には切れずに残るのかもしれない
『ブギーナイツ』の登場人物たちは、愚かで、だらしなくて、弱い人間ばかりだ
それでも彼らには、同じ時代を一緒に駆け抜けた仲間としての情がある
だからこそ、最後にわずかな救いが残る
今週もお疲れ様でした。
良い連休を!

