ここ最近、仕事をしていて少し考えさせられる出来事があった
現場のスタッフとのやり取りで、突然、文面のトーンが変わった
それまでのやり取りでは、長年、くだけた表現だった
前置きもなく、要件だけを一言で送ってくるようなタイプだった
ある日、急に文面が変わった
文面だけを見ると、人事や労務の専門家
これは本人の言葉ではない
生成AIを使ったのだ
もちろん、今時は中高生でもAIを使う
自分も日々使っている
特に文章を整える時
言いにくいことを、失礼のない形に変える
かなりの時短になる
今回、怖いと思ったのは、本人の理解が追いついていないまま、言葉だけが急に強くなっていたことだ
人は、自分の知らない言葉を使う時、少し慎重になるべきだと思う
なぜなら、言葉には力があるからだ
特に、労働契約やビジネスに関わる言葉は重い
相手に緊張を与える
組織の判断を動かす
場合によっては、今までの関係性そのものを変えてしまう
それを、意味も十分に分からないまま使ってしまう
これは、便利さの反面、かなり危ういことだ
AIは、もっともらしい文章を作ってくれる
論理的な文章も作れる
場合によっては、相手を追い詰めるような文章まで作れてしまう
しかし、その文章に責任を持つのはAIではない
送信ボタンを押した人間である
そこを忘れてはいけない
言葉は借りることはできる
でも、理解を借りることはできない
礼儀も借りることはできない
発言の責任を借りることもできない
AIで文章を書く時に本当に必要なのは、文章力そのものよりも、編集力と修正力なのだと思う
出てきた文章を、そのまま送るのではなく、削る、弱める
自分の理解できる言葉に置き換える
相手との関係性に合わせる
自分が責任を持てない言葉は使わない
この作業ができて、初めてAIはツールになる
逆に言えば、編集力や修正力がない人ほど、AIの文章をそのまま使ってしまう
そして、自分の実力以上の言葉で、相手に強く出てしまう
言葉だけが立派になる
でも、その言葉を支える理解がない
そこに、AI時代の危うさがある
AIは生産性を上げるツールだと言われている
たしかに、使い方によっては、仕事の速度は確実に上がる
ただ、今回の経験で実感したのは
未成熟な社員が、AIを使って自分の理解を超えた言葉で会社に掛け合う
それを受けた上司や担当部署も、今度はAIを使って回答を作る
すると、相手はまたAIにその回答を読み込ませ、次の反論を作る
一見すると、双方の文章は丁寧で、論理的な応酬が続く
しかし、そのやり取りの中で、本当に理解は深まっているのだろうか?
本当に問題は解決に向かっているのだろうか?
もしかすると、ただ言葉だけが高度化し、論点だけが増え、不毛な時間だけが消費されているのではないか
本来なら、上司と部下が短く話せば済むことがある
担当部署に素直に確認すれば済むことがある
「よく分からないので教えてください」と言えば済むことがある
ところがAIを挟むことで、急に言葉が武装される
武装された言葉には、相手も身構える
身構えた相手は、防御的な言葉を返す
その防御的な言葉を、またAIが攻撃材料に変える
こうなると、もはやコミュニケーションではない
言葉の応酬である
そして、そこからは何も生まれない
生まれないどころか、人間関係が崩れる
直近では、高性能AIが国家レベルのサイバーセキュリティ上の脅威として語られることも増えてきた
AIは、文章を整えるだけのツールではなくなっている
脆弱性を見つける
攻撃の可能性を広げる
人間が気づかない穴を、人間以上の速度で探し出す
もちろん、それは防御にも使える
危険を早く見つけ、被害を未然に防ぐこともできる
だが、同じ能力は、使う人間によっては攻撃にも転じる
これは国家レベルの話だけではない
日常の仕事のやり取りでも、根っこは同じだと思う
使う者の礼儀や倫理観と道徳心が問われている
AIが高度になればなるほど、使う人間の未熟さは、より大きな危うさになる
そのうち、業務上で生成AIを使うことを、あえて制限する企業も出てくるだろう
もう既にあるのかも知れない
理由は、情報漏洩だけではない
AIによって、本人の理解を超えた言葉が、社内に流通してしまうからだ
本人は分かっていない
でも、文章だけは立派になる
その文章に周囲が振り回される
説明が増える
確認が増える
管理部門や上司の時間が奪われる
結果として、AIを使ったはずなのに、組織全体では生産性が下がる
そんなことも起きているのではないかと思う
本来、人は仕事の中で、人とぶつかりながら言葉を覚えてきた
言いすぎて失敗する
怒られる
恥をかく
謝る
もう一度、言い方を考える
そういう面倒な摩擦の中で、少しずつ胆力がついていった
今思えば、アナログな時代に人と直接向き合い、摩擦し、失敗しながら仕事を覚えられたことは、とても貴重な経験だったのかもしれない
AIが何でも整えてくれる時代になるほど、逆に、生身の人間と向き合ってきた経験の価値は高まっていく
AIを使うな、という話ではない
むしろ、これからの時代、AIを使わない選択肢はほとんどなくなっていくと思う
だからこそ、使う人間の力が問われる
AI時代に本当に必要なのは、編集力、修正力、そして一番は人間力だと言える
言葉を借りることはできる
でも、言葉の責任までAIに預けることはできない

