昨日はフェリーニの『8 1/2』について書いた
夢のような映画
筋を追おうとするとよくわからないが、映像の断片を感じるだけで良いと思う
今の年齢になってようやく理解し始めた
同じく60年代の不条理映画として思い出すのがミケランジェロ・アントニオーニの『欲望』である
原題は『Blow-Up』
写真家が公園で撮影した写真を引き伸ばしていくうちにそこに殺人の痕跡らしきものを見つける
一応そういう筋はある
ただ、これもやはりストーリーを追って観る映画ではないと思う
何が本当で
何が幻なのか
写真に写っていたものは事実なのか?それとも見ようとした者の欲望が作り出したものなのか
観終わっても明確な答えはない
しかし不思議と退屈しない
むしろ、よくわからないまま画面に引き込まれていく
この映画の魅力は当時のロンドンのカルチャーが感じられるところ
モッズ、ファッション、モデル、写真、スウィンギング・ロンドン
60年代のロンドンが持っていた若さと虚無とおしゃれさが画面全体に漂っている
主人公の写真家も決して好人物ではない
傲慢で退屈していて軽薄でどこか空っぽ
でもその空っぽさが時代の気分そのものに見える
豊かで自由でおしゃれ
何でも手に入りそうなのに何かが決定的に欠けている
その感じがとても良い
そしてこの映画は音楽が素晴らしい
ハービー・ハンコックが音楽を担当している
サントラ1枚全部良い
『The Kiss』の短い妖しさ
『Jane’s Theme』の気怠い美しさ
映画の内容よりもサントラの感触の方が記憶に残っているくらいだ
『Bring Down the Birds』のベースラインはDeee-Liteの『Groove Is in the Heart』にサンプリングされた
ヤードバーズが登場する場面も有名である
若いジェフ・ベックとジミー・ペイジが同じ画面にいる
演奏しているのは『Stroll On』
もともとは『Train Kept A-Rollin’』を映画用に改作した曲である
このリフはサンハウス、そしてシーナ&ロケッツの『レモンティー』に受け継がれた
映画の解釈に戻ると
何かが起こっているようで、何も起こっていない
真実に近づいているようで、どんどん遠ざかっていく
写真を引き伸ばせば引き伸ばすほど、画像は荒くなり確信はぼやけていく
考えてみれば、これは今の時代にも通じる
情報は増え、画像は鮮明になった
拡大も検索も簡単になった
それでも真実に近づいているとは限らない
むしろ見たいものだけを見て、信じたいものだけを拡大しているのかもしれない
『欲望』
人は事実を見ているようで、結局は自分の欲望を見ている
昨日の『8 1/2』が内面の夢なら、『欲望』は都市の夢である
60年代のロンドンが見ていた「おしゃれで空虚な夢」
よくわからない
でもそのよくわからなさの中に忘れられない何かがある
受け手に解釈は委ねられる
それが不条理映画の面白さ

