元メジャーリーガーのトミー・ジョン氏が亡くなった
83歳だった
野球に詳しくない人でも、「トミー・ジョン手術」という名前は聞いたことがあると思う
傷ついた肘の靱帯を、他の部位から採取した腱によって再建する手術である
大谷翔平やダルビッシュ有をはじめ、日本の多くの投手もこの手術を受けている
トミー・ジョン氏は、この手術を最初に受けたメジャーリーガーだった
1974年、ドジャースに在籍していた時に肘の靱帯を損傷した
当時、この怪我は投手生命の終わりを意味していた
そこでチームドクターのフランク・ジョーブ博士が、前例のない手術を提案した
成功する保証はなかった
トミー・ジョン氏は手術を受け、約1年半のリハビリを経てマウンドに戻った
そして復帰後に164勝を挙げ、46歳まで現役を続けた
彼が残した通算288勝という記録も立派だが、現在、その名前は一人の名投手として以上に、傷ついた選手を再びマウンドへ戻す手術の名前として残っている
これほど価値のある名前の残り方もない
では、ビジネスマンにとってのトミー・ジョン手術とは何だろう
ビジネスマンにとっての肘は、長年かけて身につけた仕事のやり方ではないだろうか
経験によって磨かれた自分なりの方法
それによって成果を上げてきたという自信
しかし、環境が変われば、かつての成功体験が弱点になることもある
過去に成果を上げた人ほど、自分のやり方を変えることが難しい
長年酷使してきた肘のようなものである
自分は、ビジネスマンにとってのトミー・ジョン手術は、AIによる仕事の再構築ではないかと思っている
AIは、これまで培ってきた経験や判断力を不要にするものではない
調べ方、考え方、文章の作り方、仕事の進め方を新しく組み直すためのツールである
トミー・ジョン手術も、腕を丸ごと取り替えるわけではない
傷んだ部分を別の腱で再建し、リハビリによって再び投げられる身体をつくる
AIも同じである
長年培ってきた経験や人間関係、物事を見る目はそのままに、新しい技術を組み込む
そして、実際の仕事で使いながら、自分のものにしていく
AIが新しい腱なら、日々使い続けることがリハビリである
若い人と同じ速度で新しい知識を覚える必要はない
経験のある人がAIを使えば、長年蓄積してきた判断力に、若い頃のような処理能力を加えることができる
自分も60歳到達まで1年半を切った
これまでと同じ働き方を続けていれば、少しずつ衰えていくのかもしれない
しかし、固定観念を捨て、AIによって仕事のやり方を再構築すれば、60歳を超えても現役並みの、いやそれ以上の成果を上げることは可能だと思っている
AIは、若いプレイヤーが年長者を追い越すためのツールではない
年齢を重ねた人が、もう一度現役のマウンドに立つための手術でもある
トミー・ジョン氏は、手術後に164勝を挙げた
大切なのは、元に戻ることではない
再構築した自分で、そこから何勝できるかである

