日本銀行の氷見野副総裁が、「これまで以上に物価の上振れリスクを意識する必要がある」と発言した
今後の経済や物価の状況によっては、さらなる利上げも考えられるということだ
日本では長い間、金利がほとんどつかない時代が続いた
銀行にお金を預けても利息はつかない
一方で、住宅ローンや企業融資は低い金利で借りることができた
私たちは、いつの間にかそれが当たり前だと思うようになった
しかし本来、金利とはお金の値段である
金利が上がると、企業や個人の行動が変わる
企業は、新しい設備投資を慎重に考えるようになる
借り入れをして新規事業を始めても、金利を上回る利益を出せるのか
事業計画そのものを見直さなければならない
これまでなら融資を受けて事業拡大していた企業が、既存事業の立て直しを優先する
新しい設備を導入する予定だった企業が、もう一年使うことを選ぶ
人を増やすより、現在の社員で乗り切ろうと考える
企業は成長よりも、手元に現金を残すことを優先するようになる
個人も同じである
住宅ローンの返済額が増えれば、家を買う時期や予算を見直す
自動車の買い替えを先延ばしにする
旅行や外食を減らし、教育費や老後資金を優先する
変動金利ではなく固定金利を選ぶ人も増えるだろう
借りられる金額ではなく、無理なく返せる金額を基準に生活を設計するようになる
つまり、金利が上がると、企業の事業計画も個人の生活設計も慎重になる
その慎重さが社会全体に広がれば、設備投資や住宅購入、消費が減り、景気は冷えていく
それによって物価上昇を抑えるのが、利上げの目的でもある
しかし、経済のニュースでは「需要を抑える」と簡単に表現されることも、実際の生活では違う
誰かが家を買うことを諦める
誰かが事業を始めることを断念する
企業が拡大路線を見直し、採用を減らす
金利は、人の決断を変える
しかも、金利の上昇は、すべての人に同じ影響を与えるわけではない
すでに資産を持っている人は、預金や債券から利息を受け取ることができる
借金がなければ、返済額が増えることもない
景気が冷えて不動産や株式の価格が下がれば、手元にある現金で新たな資産を買うこともできる
一方、資産を持たない人は、家を買うにも、事業を始めるにも、お金を借りなければならない
学ぶためのお金も同じである
日本学生支援機構の第二種奨学金は、借り終えた月に返済金利が決まる
2026年7月に借り終えた人の金利は、利率固定方式で年3%
2022年7月の0.437%から、この4年間で6.9倍と大きく上昇した
奨学金という名前だが、貸与型は借金である
大学や専門学校を卒業して社会人になると同時に、返済が始まる
金利が上がれば、家庭も本人も、安易な進学には慎重なスタンスになるだろう
周囲も進学するから
とりあえず専門学校、大学を出ておいた方がいいから
それだけの理由で、高い学費を借りてまで進学する人は減っていくかもしれない
その学校で何を学ぶのか
卒業後にどのような仕事に就くのか
借りた奨学金を無理なく返せるのか
進学にも、事業計画と同じような判断が求められる
親に資産があれば、金利を気にせず希望する学校へ進学できる
資産がなければ、学びたい気持ちがあっても、将来の返済を考えて進学先を変えたり、進学そのものを諦めたりする
何かをすでに持っている人には、金利が利益をもたらす
これから何かを持とうとする人には、金利が壁になる
金利のある世界では、持てる者と持たざる者の差が、ますます開いていく
では、金利上昇によって増えた負担をどうするのか
企業にとって、その有力な手段がAIである
借入金の利息が増えたからといって、簡単に商品価格へ転嫁できるとは限らない
社員の待遇を下げるわけにもいかない
それならば、これまで労力をかけていた仕事をAIに任せ、会社全体の生産性を高める必要がある
それぞれの業務を人の経験や記憶だけに依存せず、AIエージェントによって自動化する
人を減らすというより、人が一から十まで行っていた仕事をAIと分担し、一人が生み出す価値を大きくする
金利の上昇によって増えたコストを、AIによる生産性の向上で吸収するのである
個人にとっても同じである
これまで専門学校や大学へ行かなければ学びにくかった知識を、AIを使えば自分で学べるようになった
資格が必要な専門分野は別として、学校で学んだ知識だけで決まっていた差は小さくなっていくだろう
高卒でも、AIを使いこなせば、専門学校や大学を卒業した人と同じような戦力になれる仕事は増えていく
金利のある世界では、企業も個人も、これまでと同じやり方を続けていては負担が増えるだけである
企業は、人に依存した仕事の進め方を見直す
個人は、学校に依存した学び方を見直す
金利の上昇によって、持てる者と持たざる者の差は開いていく
しかしAIは、その差を縮める可能性も持っている
お金がなくても学ぶことはできる
大きな会社でなくても、高度な仕組みを持つことができる
学歴や会社の規模に関係なく、知識と生産性を高めることができる
金利の上昇は、企業の事業計画と個人の生活設計を変える
同時に、会社と学校に依存してきた、働き方と学び方も変えていく

