戦争から逃げれば、助かるわけではない
国境を越え、家を失い、見知らぬ土地にたどり着いた後も、食べるものや医療、子どもが学ぶ場所を必要とする
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の資金不足によって、今年、最大830万人の難民や避難民が必要な支援を受けられなくなる恐れがあるという
830万人という数字は大きすぎて、かえって一人ひとりの顔が見えなくなる
戦争が始まった時、私たちは爆撃の映像を見て、怒り、悲しむ
しかし報道が減った後も、そこから逃れた人々の生活は続いている
戦争が終わらなくても、世界の関心は薄れていく
同じ頃、マレーシアがミャンマー出身者の送還を始めた
マレーシア政府は自発的な帰還だと説明している
一方で、国連や人権団体は、紛争が続くミャンマーへ戻る人々の安全を懸念している
帰る人たちがどのような事情を抱え、本当に自分の意思で帰るのかも、見過ごしてはならない
「帰国」と聞けば、家に帰るように思える
けれど、逃れてきた人にとって、そこは今も安心して暮らせる故郷なのだろうか
家が残っているのか
かつての隣人がいるのか
戻った後、その人の身を守ってくれるのは誰なのか
これは、他国だけの話ではない
日本では、ミャンマーの情勢を踏まえた緊急避難措置として、本国に帰ることが難しい人に、就労できる在留資格「特定活動」を認めている
難民認定とは別の制度だが、働きながら日本で暮らす道を開く措置である
人材の仕事に携わっていると、外国から来た人たちが日本の職場を支えていることを実感する
彼らが働くことで助かっている企業も、少なくないはずだ
私たちは彼らを「労働力」として必要としながら、帰る場所があるかどうかという問題には、どれほど目を向けているだろう
一方、日本では在留資格のない人の送還を進める動きも強まっている
2025年には、出入国在留管理庁が「不法滞在者ゼロプラン」を発表した
この計画によって、緊急避難措置で在留を認められたミャンマー人が一律に送還されるという話ではない
それでも、送還を急ぐ時ほど、一人ひとりが帰国できない事情を丁寧に確かめる必要があると思う
国が入国や在留のルールを定めることは必要だと思う
治安への不安を持つ人がいることもわかる
しかし、その不安と、故郷に帰れば危険にさらされる人の事情を、ひとまとめにしてはならない
書類の上で「帰国できる人」とされたとしても、本当に安全に帰れるとは限らない
働く時には必要とされ、帰る時には一人の事情として見てもらえない
そんな社会であってよいのだろうか
誰もが、帰る場所を持っているとは限らない

