以前、あるカジュアル衣料チェーンの社長に、その会社で働いていた社員が、うちに応募してきたと話したことがある
すると、こんな言葉が返ってきた
「誰のことかわからないけれど、うち出身なら良い子なので、よろしくお願いします」
感動した
誰なのかを確かめる前に、そう言えるのかと思った
その人の考え方すべてに共感していたわけではない
ただ、この言葉は今も覚えている
自分も、そんなふうに言える関係を社員と築いていきたいと思った
もっとも、現実には色々な辞め方がある
周囲に迷惑をかけて辞める社員もいるので、皆を手放しで推薦できるわけではない
自分も、元社員について前職照会を受けることがある
その時は、できるだけその子の良い部分を伝えてきた
親心のようなものだろう
うちではうまくいかなかったとしても、次の場所では頑張ってほしい
もちろん、深刻な問題があれば、正直に伝えなければならない
受け入れる側にも迷惑はかけられない
経営者仲間との信用もある
応援したいからといって、いい加減なことは言えない
それでも、辞める時の評価が、その人の一生の評価にはならない
以前、仙台から新卒で入社した社員がいた
キャラクターを一言で言うと、「ヤンキーギャル」笑
色々あって、周囲にも心配や迷惑をかけ、入社から1年も経たずに辞めてしまった
何年か経って、同期の社員から、その子が焼き鳥屋で働いていると聞いた
どうしているのか気になって、ふらっと店へ行ってみた
自分を見た瞬間
「社長、お久しぶりです!」
元気そうだった
しかも、繁盛店の忙しい店内を、ずっと小走りで動いていた
テキパキと仕事をこなし、お客さんに世間話を振って、会話を楽しんでいる
ひいき目を抜きにしても、こんな飲食スタッフには滅多にお目にかかれないと思った
仕事が楽しくて仕方ないのだろう
その様子が、見ているこちらにも伝わってきた
聞けば店長を目指して頑張っているという
一度、昇進試験を受けたけれど落ちてしまった
また挑戦するのだと話してくれた
笑いながら聞いていたが、涙腺は緩んでいた
偉いなあと思った
すると彼女が言った
「あの時は、色々迷惑をかけてすみませんでした」
さすがに涙が出た
謝ってほしくて訪ねたわけではない
元気にしているか、顔を見たかっただけだ
そこへ、その言葉だった
一生懸命働くうちに、あの頃にはわからなかったことが、わかるようになったのだろうし
自分の持ち味を発揮できる場所にも出会えたのだろう
会社にいた頃の姿だけで、その後まで決めつけることはできない
失敗し、後悔し、別の場所で経験を重ねながら、人は成長していく
自分の会社を辞めた後も、元気に働き、幸せになってくれたらうれしい
うちでの経験が、少しでも役立っていれば、なおうれしい
良いもの見せてもらった
ただ、こういう再会に心を動かされることと、社員を評価することは分けて考えなければならない
毎日きちんと出勤し、責任を果たし、何年も地道に働き続けている社員がいる
誰かが迷惑をかけた時、その穴を埋めてくれた社員もいる
会社を支えているのは、そういう社員たちだ
その頑張りを当たり前にせず、きちんと評価し、報いなければならない
映画では、欠点のある人間が失敗し、挫折し、それでも立ち上がろうとする姿に惹かれる
自分の好きな映画にも、そういう人物が多い
順風満帆な人生より、波乱のある人生の方が、物語としては面白い
しかし、世の中は、大多数の真面目な人の頑張りで成り立っている
そこを忘れてはいけない
焼き鳥屋で彼女に感動したのも、目の前のお客さんを楽しませ、忙しい店を支えながら、次の目標に向かって頑張っていたからだ
カジュアルチェーンの社長のように、誰なのかも聞かずに「うち出身なら良い子です」と言い切るのは、今の自分には難しい
それでも、うちで働いてくれた人には、その後も幸せになってほしいと思う
会社を辞めた後も、その人の人生は続いていく
焼き鳥屋で、その続きを少し見せてもらえた

